上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
- --/--/--(--) --:--:--|
- スポンサー広告
-
-
翌日、優香は一週間ぶりに学校に行った。
誰も体の心配をしてくれる者はいなかった。相変わらず、女子は蔑むように優香に冷淡な視線を浴びせかけ、男子は期待に股間を膨らませつつ、優香のさらなる羞恥の場面を、一心に待ち望んでいるのだった。一週間前と何も変わっていなかった。
体育祭が近づいていた。学生生活最後の体育祭。クラスが団結して頑張る、またとない機会。クラスのみんなはこの最後の体育祭を最高の思い出にしようと活気づいていた。
一方の優香は、今の立場で体育祭が楽しみというわけにはいかなかった。体育祭ということは当然よそから大勢人が見にくる。それもまったくの他人ではなく、生徒の親、兄弟、友達など…… 千夏がこのようなチャンスを逃すはずがない。
体育祭前日の夜、千夏は優香の家を訪れた。
「ちょっと携帯貸してみな」
部屋に入るや千夏はすぐにそう言い、何やらボタンをパチパチやり始めた。
「ねえ、ちょっと! なにして……」
「うるさい! あんたは黙ってろ!」
それから5分ばかり何やら携帯をいじっていたが、やがて、
「よし、終わった」
と言って満足そうに携帯を返した。
優香はわけがわからず不安な眼差しで携帯を見つめた。
と、すぐに携帯が鳴り出した。メールだった。しかも一回では終わらず、何通も何通も送られてくる。
優香は千夏の顔を見た。
「ねえ、誰にメールしたの……」
しかし千夏は何も答えない。優香は不安げにメールを見た。
『優香ちゃん久しぶり~。明日ちょうど暇だったから、絶対見に行く。あっちゃんとケイコも誘うね。優香ちゃん見つけたらみんなで声援送るから!』
それは優香の中学の時の友人だった。次のメールも、やはり中学の友人からの、体育祭見に行くという返事。次も、また次も…… つまり千夏は、携帯の電話帳に入っている限りの優香の知り合いを、明日の体育祭に招待したわけだった。当然男子もその中にあった。またお世話になった担任の先生からの返信まであった。
『お元気ですか? 卒業して三年も経つのに、こうして先生のこと覚えていてくれてとても嬉しいです。明日は是非見に行きたいと思います。きっとあなたのことだから、中学の時のようにクラスを一つにまとめて、何事にも一生懸命取り組んでいることと思います。そんなあなたの変わらない姿勢を先生は今から楽しみにしています。』
読み終えた優香は、わけがわからず、途方に暮れるしかなかった。
「どういうこと? ねえ、なんでわざわざみんなを呼んだの?」
「なによせっかく呼んであげたのに……嬉しくないの?」
「そりゃ、嬉しくないわけじゃないけど……」
「学生生活最後の体育祭なのよ。あんたの勇姿、みんなに見てもらわなくちゃね。そう思って招待したのに、少しは感謝しなさいよ」
優香は余計なお世話だと心の中で思ったが、そうは言えず、
「ありがとうございます……」
と千夏に頭を下げるのだった。
それからしばらくして、千夏はやっと帰る支度を始めた。
が、部屋を出る際、ふと思い出したように、
「あ、そうだ、あんた体操着見せて」と言った。
優香は鞄の中の今日着たTシャツとブルマを取り出した。
「汗くさいねえ」
「いや、洗ったのがもう一つあるから……」
「それも持ってきな」
優香は下へ行って、その洗濯したばかりの体操着を持ってきた。
「これもダメねぇ」
「でも洗濯したばかりだから全然大丈夫……」
「いやダメ! これで全部?」
優香は全部だと言った。千夏はしばらく考える様子をしていたが、やがて、
「わかったわ。明日あたしがちゃんとしたの用意してあげるから、あんたはそれを着なさい」
突如優香の心は不安で一杯になった。
「そんな不安そうな顔しないで……あたしが全部用意してあげるから」
そう言って、優香の二着の体操着を持って部屋を出ていこうとした。
「ねえ待って、それはどうするの?」
「ん、これ? 捨てるよ」
「捨てるって……そしたら明日着るものがなくな……」
「だからあたしが用意するって言ってんだろが! バカだねぇ」
それからまた、千夏は優香に、
「あ、それと、下の毛はきれいに剃りなさいよ。明日確認して剃ってなかったら、みんなの前で剃らせるから」
そう言うと千夏はやっと部屋を出て行き、鼻歌をうたいながら、上機嫌で玄関に向かっていくのだった。
優香はその日食事が喉を通らず、不安な夜を過ごした。
- 2010/07/26(月) 07:00:32|
- 優香
-
| トラックバック:0
-
| コメント:10