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プールにはすでにクラスの生徒たちが集まっていた。指定のブーメランパンツをはいた男子たちはいつもより少しうきうきして張り切っている様子だった。体にぴったりした紺のスクール水着を着た女子たちは恥ずかしそうにみんな寄り集まって、腕を組むふりをしながら胸の膨らみを隠そうと努力していた。男子たちのいやらしい視線が女子の胸や尻の上をひっきりなしに動き回った。
「ねえ、いま高橋のやつ、恵子の胸の方見てたよ」
「え、ホントに? やだぁ、気持ち悪い」
そんな平和な光景がしばらく繰り広げられていたが、やがてチャイムが鳴るとみな一斉に控えの場所に整列して教師が来るのを待った。
教師の田崎がやってきた。すると生徒たちは話すのをやめた。
「起立! 気をつけ! 礼!」
そして体育座りした。
そのとき、制服姿の優香が現われ、びくびくしながら田崎に言った。
「あの、今日の授業は見学させてほしいんですが…」
「ん、見学? 聞いとらんぞ、そんなこと」
「水着が…その、なくなってしまったので」
「なくなっただ? そんなもんいいわけになるか! しかも『なくなった』じゃなくて『忘れた』だろが!」
「いえ…ちゃんと持ってきたはずなんです」
「どっちでもかまわん! ないものはないんだ、社会に出たらそんな言い訳通用しないぞ!」
そう言うと田崎は事前に見学を申し出ていた三人の女子の方を向いて言った。
「おい、誰か水着持ってきてないか? 田辺に貸してやれ」
するとその三人の女子たちは、
「私持ってきてないでーす」
「私もでーす」
「私もないでーす」
と田崎に向かって答えたが、実は三人ともちゃんと持ってきていた。ただ優香に貸したくないので持ってないと嘘をついたのだった。
「そうか、じゃあ困ったな。さすがに裸で泳がせるわけにはいかんし…」
と、そのとき三人の方から再び声がした。
「水着? 持ってますよ」
みんな一斉に振り向いた。それはクラスのお調子者の男子だった。足の捻挫のため今日の授業は見学になっているのだった。
「俺の水着なら、ありますよ」
みんなはまたいつもの冗談が始まったと思って笑った。そうやって余計なことを言っていつも教師たちを怒らせる。だからこのときの冗談にも、すぐさま田崎の雷が落ちるだろうとみんなは待ち構えた。
しかし田崎の方は案外真面目な顔をしていた。そしてやがて平然とした顔で、
「おぉ、そうか……じゃあ悪いが田辺に貸してやってくれないか」と言った。
優香は自分の耳を疑った。
「先生…違います。小林くんは男子ですよ」
「ん? そんなことくらい知っとるわい」
「男子と女子では着る水着が違うんですよ」
「でも水着は水着だ」
「さっき先生、さすがに裸で泳がせるわけにはいかないって言ったじゃないですか!」
「言ったよ。だから水着を借りるんじゃないか」
「男子の水着じゃあ裸と一緒です!」
「うるさい!」
とそのとき田崎が怒鳴った。
「何を生意気に大人ぶった口聞いてるんだ! お前らはまだ未成年の子供じゃないか! 子供が生意気に裸が恥ずかしいとか何とか思うな! 誰もお前の胸なんて興味ない!」
そしていっそう厳しい命令口調で、
「わかったらさっさと着替えてこい! 嫌ならパンツ一枚で泳いでもらうぞ!」
優香は重く肩を落としてとぼとぼ校舎の方へ歩いていった。
「何もたもた歩いてるんだ! 五分以内だぞ! もし五分に着替えて来なかったら、罰として水着のままグラウンド十周だ!」
という叫び声が優香の背中に響いた。
- 2009/05/31(日) 04:39:46|
- 優香
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